≪図解≫イギリスがEU離脱(BREXIT)する理由を分かりやすく説明します
左がイギリス、右がEUです
こんにちは。キング・ブログ・スライムです。
前回はEUとはどんな組織なのかについて、基礎から分かりやすく解説しました。
>>>≪図解≫EUとはどんな組織?―基礎から分かりやすく説明します』
今回は、イギリスがなぜEU離脱を決めたのかについて、図を交えながら説明しようと思います。
2016年の6月にEUの残留是非を問う国民投票が実施され、投票の結果、EUを離脱する方針が決まりました。
そして2017年の3月29日にイギリス政府がEUに離脱を通知し、2年間にわたる離脱交渉が始まります。
イギリスのEU離脱問題は、BREXIT(ブレグジット)と呼ばれることがあります。
ブレグジット「Brexit」とは、イギリス「Bretain」+離脱「Exit」の造語です。最近はよくテレビなどで使われているので、既に知っている人も多いでしょう。
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今回はこんな内容
ブレグジット(BREXIT)の主役たち
劇には主役がいるのと同様、ブレグジットにも主役がいます。
イギリスとEUです。
<① イギリス>
イギリス「みんな批判してくる~はぁ~」
今回の問題を起こした張本人。
なぜ離脱を決めたかという理由は、下でたっぷりと話してもらいますので、今は紹介だけにしておきます。
<② EU>
EU「悪いのはぜーんぶイギリスだよ~」
前回も軽く紹介しましたが、お馴染みのEUです。EUとはヨーロッパ連合の略。
イギリスに対しては厳しい態度に出ていて、イギリスが先に離脱を宣言しないと、交渉には全く応じないと言っています。
では、イギリスがEU離脱をなぜ望んでいたのか?、その理由・背景を見ていきましょう。
理由① 移民・難民が入ってくることを、嫌う人が多かった
移民・難民の流入を嫌うイギリスのイメージ図
さて、イギリスのEU離脱問題の中で最も焦点になったのは、「移民」・「難民」だといっても過言ではありません。
移民難民の中で、一番多いのが東欧諸国(東ヨーロッパ)からの移民で、数は多くないものの注目されているのがシリア難民です。
※移民と難民の違いに注意してください。移民はより良い給料(経済的理由)を求めて入国してくる人々で、難民は戦争や災害などを逃れて入国してくる人々です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
<東欧移民>
2004年にキプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロバキア、スロベニアが、2007年にブルガリア、ルーマニアがEUに加盟したことで、これらの地域(=東欧)からイギリスに入ってくる移民が増えました。
イギリス国内で特に多いのは、ポーランドやルーマニア、リトアニア出身者です。
イギリスやドイツといったヨーロッパの先進国は東欧諸国と比べて賃金水準が高く、高い給料を求めて数多くの移民がやってきます。
今の日本でも、仕事や高い給料を求めて地方から東京に出てくる若者が後を絶ちません。これと全く同じです。
一部のイギリス人は、移民がイギリスに元から住んでいる人間の雇用を奪っているとして、東欧系移民に反感を持っています。
また、移民はEU市民であるため、公立病院を無料で利用でき(この医療制度をNHSといいます)、また移民の子供は公立学校に無償で通う権利も与えられるなど、手厚い公共サービスにアクセスできます。
一部のイギリス人は、税金が自分とは関係のない移民に投入されることに抵抗を感じている人もいます。
少数派である移民は立場が圧倒的に弱く、国内の不満のはけ口として利用されがちです。
(引用元(英語版):Net Migration Statistics―Migration Watch UK)
上は、移民の純増数(=国内に流入した人数ー国外に流出した人数)を表した図。
横軸は西暦、縦軸には移民の純増数をとってあります(単位は千人ずつ)。
2000年前後からイギリスに入ってくる移民は増加していて、2015年には過去最高の63万人もの移民が入ってきました。
因みに、島根県の人口が約69万人(2016年10月時点の推計値)ですから、たった1年で島根県の全人口に相当する移民がイギリス国内に入ってきたわけです。
また、イギリス国内の人口が6500万人なので、65万人というのは、イギリスに住む人の100人に1人は2015年に入ってきた移民だということになります。
恐ろしいですね(笑)。
次は最近まで話題だった「シリア難民」についてです。
<シリア難民>
スロベニアを移動するシリア難民たち
二つ目に、シリア難民が挙げられます。
現在、2011年に起きたアラブの春以降、中東地域では内戦が続いていて、内戦を逃れたい人が大挙してヨーロッパに押し寄せています。
難民を乗せたボートが転覆して多数の死人が出るなど、問題が多発していますが、無事EUの域内に入れた難民が目指すのは、主にドイツや北欧などの先進国です。
特にドイツは、難民に対する保障が他の国に比べて手厚いことや、難民に対する雇用があること、難民に寛容なことから、シリア難民の最大の受け入れ先となっています。
ドイツは2015年に、100万人以上の難民・移民を受け入れています。※これは本当にすごいです
一方、イギリスにやってくるシリア難民の数自体は少ないです(データによるが1年で約2~4万人)。
※一部のサイトでは、「大量のシリア難民が入国してきて、イギリス人が不満を感じている」的な記述をしていますが、それは間違いなので注意してください。
しかし、ドイツ同様、イギリスも難民に寛容な政策を採っていて、増加する難民に対するイギリス市民の声も同時に高まっています。
というのも、イギリスの市民権がない移民・難民に対しても、公共サービスの利用やイギリス国内での労働が認められているからです。
一部の納税者は、税金を納めていない難民が公共サービスを受けているのを見て、不公平だと感じています。
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理由② 支払った分担金に見合う返金がないという不満がある
EUからの見返りに不満の様子を見せるイギリス
EUは、例えば農家に対して補助金を支給するなど多岐にわたる政策を行っているほか、多数の官僚を抱えているため、組織を運営する資金が必要となります。
その運営資金は、加盟国が経済規模などに対応して分担支払することになっています。
2015年時点でイギリスは、EUの中で3番目に多く資金(分担拠出金)を提供していて、運営費全体の12、57%に当たります。
因みに、第一位の国はドイツで、第二位はフランスでした。
しかし、EUの予算は、イギリスやドイツの様な先進国よりもむしろ、東欧諸国などの発展が少し遅れた地域に多く配分される傾向があります。
下に国ごとの支払額と、受取額のグラフを載せています(2013年)。
(引用元(英語版):EU Facts: how much does Britain pay to the EU budget?―The Telegraph)
黄色で囲んだところがイギリス(UK)のグラフです。明らかに受取額よりも、支払額が多いことが分かります。
一方、受取額が最も多いのは農業が盛んな国々で、ポーランドやフランス、スペイン、ドイツなどが挙げられます。
さて次に、ECに加盟した1973年から2015年まで、イギリスがEUにいくら払って来たかを示すグラフを見てみましょう。
青色のグラフがEUに支払った分担拠出金で、赤色のグラフがEUから戻ってきたとされるお金、黒いグラフが青色から赤色を引いたもの=損をしている額 です。
※単位がポンド(£)で、1£=約140円です。
(引用元(英語版):The UK’s EU membership fee―Full Fact)
折れ線グラフはほとんど黒字で、特に2008年以降は黒字額が大幅に増えていますね。黒字=支払いがの方が受取額より多い、つまり損をしていることになります。
最新の2015年は黒字額が85億ポンド(=1,2兆円)となっています。つまり、支出面で見るとイギリスは支払った拠出金の割には、大した恩恵が受けられていないことになります。
イギリスとすれば、「損をしている」という感情をどうしても抱いてしまいます。
ただし、EUの恩恵というのは、返金額だけで示せるものではありません。
たとえEUから直接的に返金されるお金が少なくても、イギリスのように金融センターが強力な国は、EU域内での活動がしやすくなることにより、多大な利益を上げていることも事実です。(シングル・パスポート制度)
「返金額」だけで見ると、イギリスは常に「損」をしているのも事実です。
これがEUへの不満につながりました。
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理由③ EU独自のルールに従わなければいけない
大陸的なEUのルールに従うことにまたまた不満のイギリス
EU加盟国は、関税無料化などの恩恵を受けられる一方で、EUが独自で定めたルールに従わなければいけません。
大陸諸国から細かな規制を受けるのがイギリスには気に食わなかったようです。
EUが定める法律を具体的に見ていきましょう。
「バナナは曲がりすぎてはいけない」
「ティーバッグは再利用できない」
「白熱電球ではなく、LED電球を使え」
(参考(英語版):Ridiculous EU rules that Britain has to adhere to: Six of the worst―EXPRESS)
このような内容の法律が、生活のありとあらゆる場面で適応されています。
もちろんこれらの法律は少し誇張していますが、EUの定める法律によってイギリスが拘束されているのも事実でしょう。
少し余談ですが、イギリスとヨーロッパ大陸諸国(ドイツやフランスなど)は、法体系の点で大きく違っていると言われています。
イギリスは英米法(common law)と言われる法体系で、判例(裁判所での判決など)を積み重ねて、現在のルールを作ってきました。そのため、イギリスでは現在でも「憲法」がありません。
一方、ドイツなどの大陸諸国は、大陸法(civil law)と呼ばれる法体系で、既に作ってある憲法や法律の解釈をもとに、判断していこうというスタイルです。
因みに、日本は大陸法を採用しているといえます。
イギリスと大陸諸国では、そもそも法体系自体が違っているので、イギリスにとっては、根本的なところでEU の法律とはあわないと感じたのではないでしょうか。
理由④ 大英帝国の名残、イギリス人の島国意識
次は、イギリス特有の理由です。
精神論的になりますが、イギリスと大陸ヨーロッパにおいて、国民意識が違っている点です。
<大英帝国の名残>
大英帝国は消えたとも消えていないとも言えます
今回の国民投票では、高齢者ほど離脱を支持する傾向が高いという結果が出ています。
下の表は、年齢別の投票結果です。
(引用元(英語版):EU referendum: The result in maps and charts―BBC NEWS)
今の若い世代と違い、高齢者はイギリスがまだヨーロッパの中でも圧倒的に強かった時代を知っている、もしくは親世代から聞いたことがある世代です。
高齢者世代になるほど、国力が衰えてしまったイギリスの現状や、EU加盟によって移民がたくさん入ってくる現状に不満を抱いていたと想像できます。
<島国意識>
大陸と島国の意識差は、日本人がよく分かるかもしれません
よく言われることですが、ヨーロッパ大陸とイギリスでは国民意識が大きく違っています。
ドイツやフランスなどの大陸諸国と海で隔絶した島国である以上、イギリスと大陸諸国に心理的距離ができるのは否定できません。
日本=アジアの一部と言われたときに感じる違和感と似ているのかもしれません。
総じて言えること
これまで述べてきた理由をもとに、まとめて言えることは、「EUの定めるルールにより、イギリスが独自で決められる範囲が狭くなってしまう」ということです。
少し難しく言えば、イギリス国家の主権がEUによって制限されるということ。
EUは超国家的な組織(たくさんの国が集まってできたということ)であり、何か物事を決めるためには、すべての国が自分の持つ権利をEUに譲らなけれななりません。
例えば、上で述べた「理由③ EU独自のルールに従わなければいけない」にしても、自分の国で法律をつくる権利を捨てて、EUの作る法律に従わなければいけなかったわけです。
確かに、イギリス(英)はEU内でドイツに次ぐ第二位の経済大国で、EUの国々の中でも大きな発言権を持っています。
しかし、EUは実質的な”ドイツ帝国”だと言われることがあるように、ドイツの発言権が非常に強い組織だといえます。
ドイツの次に強いのはフランスの発言権であり、ドイツ(独)・フランス(仏)がEUでは強力なポジションにいるので、イギリス人にとっては「蚊帳の外」に置かれている感覚すらありました。
ドイツがとても強いポジションにいるEU
イギリスは特に、この「自分で決める権利が制限される」というEUの特性を嫌ったのでしょう。
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