【2017年】フランス大統領選挙の仕組みを分かりやすく図解しました
【2017年5月31日追記】
さて、今年の4月23日(日曜日)、5月7日(日曜日)にフランス大統領選挙が行われます。
世間で今一番注目されているのは、極右政党である国民戦線(フロントナショナル、FN)の動向です。党首であるマリーヌ・ルペン氏はEUに対して否定的で、それに代わる新たな欧州のモデルを検討しています。
EUはドイツとフランスの2大国によって支えられているので、EUに否定的なマリーヌ・ルペンが大統領に選出されれば、EUの崩壊が現実味を帯びてくることになります。
またルペン氏は、欧州で相次ぐテロをやシリア難民の流入を背景に、移民の抑制・排除を主張しています。このような排外的主張から、マリーヌ・ルペン氏は”フランスのトランプ氏”と呼ばれることもあります。
上の挿絵のように、今回の選挙でフランスが”とち狂った”場合(=ルペン氏が大統領に選出される場合)、本格的にEUの崩壊が見えてきます。
さてそんな極右政党の台頭に荒れるフランス大統領選ですが、フランス大統領の選挙システムを知らない人が多いのではと思います。
ということで、今回はフランス大統領選挙制度について分かりやすく解説しようと思います。
なお少し前に扱ったイギリスのEU離脱問題も知りたい方は、こちらからどうぞ(同じタブで開きます)
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今回はこんな内容
2017年大統領選挙の候補者
立候補者5人を、左派から右派の順に紹介していきます。
名前の横にある支持率は、4月13日にIFOPというフランスの調査会社が発表したもの。
候補者の説明は、「2017年1月31日、朝日新聞朝刊、第10面」より引用しております。
※なお、現地時間の4月23日に行われた第1回選挙により、マクロン氏とルペン氏が第2回選挙に進出することが決まり、それ以外の候補は敗退です。
①ジャンリュック・メランション氏 (19.5%) 敗退
古参の左翼政治家。EUや緊縮財政に懐疑的。
最近急上昇中の政治家。可能性は低いものの、第1回選挙に勝利することもあり得ます。
②ブノワ・アモン氏 (――%) 敗退
与党・社会党の前国民教育相。オランド政権に反旗を翻した造反組。
社会党は現職大統領であるオランド大統領の所属する党です。
オランド大統領は現在1期目です。一般に、フランスの現職大統領は2期目に挑戦するのが普通ですが、国民からの支持率が極めて低く、再選を諦めました。
再選断念は本当に異例のことで、オランド大統領の代わりとして出馬したのがブノワ・アモン氏です。
③エマニュエル・マクロン氏 (23%) 2回戦に進出⇒大統領に選出
前経済相。「右でも左でもない」と独自に立候補。
2017年4月の現時点では、最も大統領に近いと言われている候補者です。
ですが、各候補者に金銭問題や女性問題などのスキャンダルが出ており、マクロン氏も例外ではありません。
2月上旬には、マクロン氏に同性愛者との不倫疑惑が発生し、本人は否定しているものの、支持率への影響は避けられません。
このような「メガトンパンチ」がどの候補者に出てもおかしくありませんので、選挙当日まで安心することは出来なさそうです。
③フランゾワ・フィヨン氏 (19.5%) 敗退
最大野党・共和党の元首相。公金流用疑惑が浮上。
⑤マリーヌ・ルペン氏 (22.3%) 2回戦に進出⇒2回戦で敗退
右翼・国民戦線(FN)党首。欧州連合(EU)や難民・移民受け入れに反対。
マリーヌ・ルペン氏率いるFN(フロントナショナル)の選挙公約が、現地時間の2月4日に発表されました。
もし彼女が大統領にえらばれたら、国境管理や自国通貨の復活をEU諸国と協議する予定で、EU諸国からOKがもらえない場合は、フランスでもEU離脱の国民投票を行う予定です。
フランスはEUの骨格を支えてきた1国なので、ルペン氏の主張により、もしフランスがEUを離脱することになった場合、EUの崩壊は現実味を帯びてきます。
※補足―マリーヌ・ルペン氏が人気の理由について
では、なぜそれほどまでにEUに対する不満が高まり、ルペン氏が支持を集めているのでしょうか?
理由① 「移動の自由」への不満
『≪図解≫イギリスがEU離脱(BREXIT)を決めた理由を分かりやすく説明します』でも説明した通り、EU加盟国は原則的に国境審査がなく、国境を自由に移動できます。
しかし、移動の自由は必ずしも利益をもたらすわけではありません。
実際、フランスで残酷なテロが数度あったことから分かるように、一般市民だけでなく、テロリストまで自由に移動できてしまいます。
相次ぐテロを背景として、「移動の自由」に疑問を呈するフランス人が増えてきたことが一つの背景です。
理由② 共通通貨「ユーロ」への不満
また、EU加盟国の大半は、同じ通貨のユーロを使っているため、自由な通貨政策ができません。
例えば日本ならば、日本銀行が「今月は、1万円札を10万枚増刷する」といった判断を自由に行えますが、EUの場合は欧州中央銀行(ECB)が通貨の発行権を握っているため、フランスの中央銀行は何もできないわけです。
イギリス同様、「EUによって、権限(=主権)が制限されている」という感覚が、フランス国内でも広まっていると言えます。
【補足終わり】
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フランス大統領選挙の仕組み
次はフランス大統領選挙制度の仕組みを解説しようと思います。
ポイントを1つ1つピックアップしていきます。
① 国民による直接投票
日本では内閣総理大臣(首相)を選挙で直接選ぶことは出来ません。一方、フランスでは大統領を国民の手で直接選ぶことができます。
普段行われる選挙のように、自分が望む候補を直接選べるわけですね。
日本には国家元首的な存在として「天皇」がいますが、一方のフランスは”共和国”ですので、王はいません。
それゆえ、フランスの大統領は国家元首的役割も担っており、5年に一度の大統領選挙はフランスの将来を決定する一大事だと言えます。
※誤解を恐れず簡単に言うならば、フランスの大統領は、内閣総理大臣と天皇の役割をどちらも担っていると言えます。
② 選挙戦は2回戦ある
フランス大統領選挙の面白い点は、投票が2回もあるということです。
選挙日程としては、第一回投票が4月23日(日曜日)、第二回投票が5月7日(日曜日)に行われます。
まず、第一回投票について説明しましょう。
大統領選挙では、数名の候補者の中から投票が行われます。
候補者がA、B、C、D、Eの5人いるとします。
この5人の候補者から大統領を選びますが、第一回投票での勝利条件(=大統領になる条件)は、全体の過半数の票をとることです。
しかし残念ながら、1965年以降、この第一回投票で大統領に決まった候補者はいません。
今回の選挙(2017年4,5月)でも、第1回の投票で決定する可能性は非常に低いといわれています。
下は仮の選挙結果です。
得票率(何%の票を獲得したか)がそれぞれ過半数に満たない場合は、第2回投票が行われます。第2回投票に出られるのは、得票率の上位2候補です。
つまり図では、トップのEが35%、2番手のAが25%ですので、第2回投票に進出するのはA、Eの2人です。
※【5月31日追記】第1回選挙の結果より、マクロン氏とルペン氏が第2回選挙で戦うことになります。
そしてこの第2回投票に勝利した候補者が、晴れてフランスの正式な大統領になります。
なお、第1回選挙で獲得した票は一度無効になり、再度同じやり方でゼロから投票が行われます。
第2回投票の結果、Eが65%の得票率を獲得し、Aに勝利しました。
よって、Eが正式な次期大統領にえらばれたことになります。
※【5月31日追記】第2回の結果により、マクロン氏が大統領として選出されました。
選挙を2回行う方式(決戦投票)は、”とんでもない泡沫候補”がたまたま大統領にえらばれてしまうことを防ぐ制度でもあります。
有力候補同士の間で票が割れてしまった場合、泡沫候補が得票数で勝ってしまう可能性があるからです。
今回のアメリカ大統領選挙が好例で、民主党が内紛しているうちに、トランプ氏が大統領になってしまいました。
そういった危険性を避けるために、本当に今の候補者で大丈夫なのか、再度民意を問う「第2回投票」が行われるのです。
フランス式決戦投票は、フランス人が編み出した政治的知恵と言えますね。
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③ 選挙権の資格
在日フランス大使館HPによると、選挙権を有するのは、、、
第1回投票の前日に18歳以上で、民事上・政治上の権利を享有する、すべてのフランス国籍者が投票できます。外国居住者も、拘留者も含まれます。
(引用元サイト:フランス大統領選挙―在日フランス大使館)
つまり、選挙権を有するのは、18歳以上のフランス人ということです。
意外なのは、外国に住むフランス人だけでなく、拘留者(=受刑者)にも選挙権があることです。
そして、日本と違って面白いのが、フランスは世界各地に植民地を持っているので、それらの地域からの投票も行われるという点です。
もちろん植民地といっても、立派なフランス共和国の一部ですので、選挙権があって当たり前ですが。
④ 被選挙権の資格
被選挙権とは、大統領選挙に立候補できる権利のことです。
誰でも立候補できてしまうと、ふざけて出馬する人が出てきたり、候補者数が莫大になる恐れがあるので、最低限の条件を設けています。
先ほどの在日フランス大使館のHPを引用すると、出馬条件には以下のものがあります。
候補者は少なくとも30県以上から500人の推薦人(市町村長、ヨーロッパ議会、国会、地域圏議会、県議会などの議員)を集めなければなりません。
(引用元サイト:同上)
さらに選挙時に公開される資産状況申告書も憲法院に提出します。最後に、選挙運動費用収支報告書を投票後2カ月以内に提出することを約束します。
(引用元サイト:同上)
つまり実質的には、市町村長や国会議員などから多数の支持を集められるような、政治経験が十分ある人しか選挙に出馬できません。
そのため、選挙に出馬できる人数は、数名に限られてきます。
最後に
イギリスのEU離脱や難民問題、相次ぐテロでいろいろと話題になっているEU(欧州連合)ですが、そのEUを支えてきたのはドイツとフランスです。
独仏枢軸という言葉もあるほど、EUにおいてフランスの存在は欠かせません。
下の図のように、ドイツとフランス、EUの3者は欧州において重要な役割を果たしてきました。
※EUの仕組みを基礎から知りたい方は、こちらの記事を参照ください(同じタブで開きます)。
参考サイト:『≪図解≫EUとはどんな組織?―基礎から分かりやすく説明します』
今回の選挙で、もしも反EUを主張するマリーヌ・ルペンが大統領に選ばれたなら、本格的にEUの崩壊が現実のものとなってきます。
日本にいるとフランスやドイツなどヨーロッパのことにはあまり関心が持てない私達ですが、今回のフランス大統領選は歴史的に重要な1戦となりそうです。
注目しておきましょう。
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